
公開日 2020/10/16 115分
★★★★★★★ 7.0
タイトルに「スパイ」が付くだけに、筋書きを楽しむ物語。
以下は私の解釈。ネタバレ。
ネット上の大方のあらすじとは異なり、私の解釈は優作が満州に渡ったのは、カメラを持ち込んでいる時点で、そこの惨状や人体実験を映す目論見があったと見ている。
つまり優作は満州に渡る以前からスパイなのだ。
いとこの文雄は、その変貌ぶりからも、当初は何も気付いておらず、満州に渡ってから正義感に火がついたのだろう。
満州から連れ帰った草壁弘子は「悪魔の所業」の生き証人なのだが、当然優作との関係も疑われる。
優作の目論見が破れたのは弘子が旅館の主人に殺されたこと。
これにより満州から持ち帰った機密文書の翻訳を同じ旅館で勤しんでいた文雄が監視されることになる。
優作は旅館への出入りはあったようだが、監視の下で機密情報は持ち出せない。
練った策が妻、聡子に託すことだったのだろう。
だがここでも目論見が外れる。
聡子が資料の一部を当局に持ち込んだことだ。
和服に装いを変えた聡子は、国賊許すまじの本人の意思の表れでもあるが、優作の思いから外れていることも表している。
これが元で文雄は逮捕され、優作の機密情報持ち出しプランも振り出しに戻る。
優作は聡子を裏切りながら守るという、まさに「お見事」な作戦で持ち出しに成功する。
その後、コスモポリタンを称した男の機密情報がどれほどの役割を果たしたのかは分からないが、神戸は火の海となる。
これもスパイとしては「お見事」なのだろう。
聡子が無邪気な人物ではなく、いとこでもある当局の泰治が、自分に好意を寄せていることを承知しているなど、女としての駆け引きに長けていることなど、人物描写は深く設定されている。
またイギリス商人ドラモンドの手紙、使用人駒子(チェスの駒とフィルムの駒に掛かっている)などの設定にも含みがある。
さて、「スパイの妻」だが、結局、優作とともに亡命を図る聡子には高揚感を伴ったスパイごっこであった。
スパイである夫の本意に気づかず、ある時突然に失ってしまうのが、いわゆる「スパイの妻」だ。
ラストにその後の顛末が字幕で語られるには、拍子抜けの印象もあるが、映像で語られているまでがスパイの妻の本分なのだろう。
私の解釈とは異なり、優作は満州に渡ってからスパイと化したのかもしれない。
このように、映像の裏にあるストーリーも巧みで、しかもあれやこれやこれやと詮索の余地を残す卓越した語り口を楽しむのも映画の醍醐味だ。
さてNHK製作で、満州での関東軍731舞台の人体実験のエピソードを描くとは意外だった。
時代の趨勢だろうか。黒沢・濱口ブランドの力だろうか。
原題 スパイの妻 <劇場版> WIFE OF A SPY
製作国 日本
製作 NHK
製作 NHKエンタープライズ
製作 Incline
製作 C&Iエンタテインメント C&I Entertainment.
監督 黒沢清 Kurosawa Kiyoshi
脚本 濱口竜介 Hamaguchi Ryusuke
脚本 野原位 Nohara Tadashi
脚本 黒沢清 Kurosawa Kiyoshi
撮影 佐々木達之介 Sasaki Tatsunosuke
美術 安宅紀史 Ataka Norifumi
編集 李英美 Lee Hidemi
音楽 長岡亮介 Nagaoka Ryosuke
出演 蒼井優 Aoi Yu
出演 高橋一生 Takahashi Issei
出演 坂東龍汰 Bando Ryuta
出演 恒松祐里 Tsunematsu Yuri
出演 みのすけ Minosuke
出演 玄理 Hyunri
出演 東出昌大 Higashide Masahiro
出演 笹野高史 Sasano Takashi