
公開日 2019/03/08 116分
『グラン・トリノ』以来、10年振りのイーストウッド監督・主演作だ。
本人は俳優としての引退を宣言していたが、やる気になったのだろう。
イーストウッドのテーマはもうずっと変わることなく「アメリカ」「ヒーロー」「贖罪」だ。
そしてこれらを涸れることなく描き続けられるのは凄い。
本作の主人公は実在したは90歳の麻薬の運び屋。
久し振りに見るイーストウッドには、歳食ったなあと思ったのだが、 これはあくまで演技で、自身は遥かにかくしゃくとしているらしい。 (そりゃあ監督しているんだから当然だ)
主人公はまったく顧みることのなかった家族への償いとして運び屋で大金を稼ぐ。
誤った方法論だが、それまでに繰り返した過ちに気づいた時には遅かったからだ。
償っていくだけの時間が残されていない。
そのために殺されても、捕まってもいいから大金を稼ぐという道を選ぶ。
当初はギクシャクしていたメキシコ人の麻薬組織の若者たちと次第に交流していくくだりは、『グラン・トリノ』のモン族の少年との交流を彷彿させる。 ワルであろうが子供であろうが、アメリカという巨大なチカラによって、極貧に追いやられているマイノリティとの打ち解ける様子は、アメリカの贖罪とさえ受け取れる。 ただそれも、主人公の魅力があってこそなのだが。
麻薬の売人たちに「人生を楽しめ」と言ったものの、「あんたは人生を楽しみ過ぎたから今は運び屋をやらされている」と言い返される始末だ。
身勝手で家庭を顧みなかった父親は『レスラー』などでも取り上げられてきた題材で、端的に言えば「外面(そとづら)親父の懺悔録」なのだが、本作の主人公は朝鮮戦争帰りで帰国後はユリ(デイリリー)の栽培で一躍名を馳せた元園芸家という、少し珍しい役回りである。
妻が優しく語りかける「家族もデイリリーと同じように手間がかかる」「一緒にいることにお金は要らない」などの言葉は真実で、おそらく昔から繰り返してきた言葉なのだろうが、主人公には響かなかったのだろう。
今になって身に沁みても、遅きに失している。
なお、キャストには実の娘を配役させるなどしてリアリティを高められている。
ラスト、主人公は刑務所内でデイリリーを栽培している。
これは司法取引をした恩恵という意味も含んでいるらしい。
ただ、司法取引で麻薬組織を告発しようが、刑務所に入ろうが、この運び屋が運んだ何百キロもの麻薬によって、どれほどの人間が苦しんだのかと思えば釈然とはしない。
それは、ブラッドリー・クーパーとの会話や裁判での証言で主人公の悔恨は見せられても、である。
主人公に魅力的な一面があることは認めるが、この麻薬犯罪者をクローズアップする作品を何故作ったのかには納得はいかない。
これまでヒーローを映してきたのとは一転して、死ぬまでバカな男を撮った、そんな演出とも思えないし、『許されざる者』を撮ったイーストウッドがこの罪を見逃すとも思えない。
家族への悔恨が表に出過ぎて、罪への悔恨の描写が薄かったのが好ましく思えなかった。
人生は幾歳からでもやり直しが効くものなのか。
原題 THE MULE
製作国 アメリカ
製作 Warner Bros. Pictures
製作 Imperative Entertainment
製作 BRON Studios
製作 Malpaso Productions
配給 ワーナー・ブラザース
監督 クリント・イーストウッド Clint Eastwood
製作 クリント・イーストウッド Clint Eastwood
製作 ティム・ムーア Tim Moore
製作 クリスティーナ・リヴェラ Kristina Rivera
製作総指揮 アーロン・L・ギルバート Aaron L. Gilbert
原案 サム・ドルニック Sam Dolnick
脚本 ニック・シェンク Nick Schenk
撮影 イヴ・ベランジェ Yves Belanger
プロダクションデザイン ケヴィン・イシオカ Kevin Ishioka
衣装デザイン デボラ・ホッパー Deborah Hopper
編集 ジョエル・コックス Joel Cox
音楽 アルトゥロ・サンドヴァル Arturo Sandoval
出演 クリント・イーストウッド Clint Eastwood
出演 ブラッドリー・クーパー Bradley Cooper
出演 ローレンス・フィッシュバーン Laurence Fishburne
出演 マイケル・ペーニャ Michael Pena
出演 ダイアン・ウィースト Dianne Wiest
出演 タイッサ・ファーミガ Taissa Farmiga
出演 アリソン・イーストウッド Alison Eastwood
出演 アンディ・ガルシア Andy Garcia
出演 クリフトン・コリンズ・Jr Clifton Collins Jr.