グリーンブック

店舗イメージ

公開日 2019/03/01  130分


★★★★★ 5.0


オスカー受賞作である本作に対する反発が多いことを知ったのは鑑賞後だった。
勿論、鑑賞してみないことにはどんな批評も当たっているや否やの判断はできない。

物語は1962年、黒人を蔑視するニューヨークのイタリア系のタフガイが、 黒人の名ピアニストのツアーの運転手としてディープサウス(南深部)をツアーする物語。
とにかく陽気でお喋りで、ピザを畳んで食べるような大食いの運転手。
かたや無口で気難しいピアニスト。
ディープサウスはどこまで行っても差別が途切れることはない。
そして旅を続ける中で互いを理解しながら二人は友情を育んでいく。
黒人でも裕福であるピアニストは"はぐれ黒人"であること (農場の黒人労働者達に見つめられるシーンや本人の激白)や、 人を動かすには才能があるだけでは不十分で勇気が必要なこと (今回のツアーの原動力)などが、印象的に語られる。
その一方で、このロードムービーには主人公の資質に因るコメディ的なエピソードがふんだんに盛り込まれ、 (ケンタッキーに来ればケンタッキー・フライド・チキンだとか、 骨は窓から放るとか、でも飲み物のカップは捨ててはいけないとか) コメディ色の強いのが特徴である。
南部のしきたりに抗い、ヴィゴ・モーテンセンの家族に迎えられた クリスマスのラストで物語は温かく幕を閉じる。
深い感動はなかったもののハートウォーミングな気持ちで鑑賞を終えたのだが・・・。
どうも私の見方は浅かったようだ。

その後に見た批評が当たっているように思える。
主な批判は、本作は「白人の目線で描かれた白人を喜ばせるための表層的な映画」であるという指摘だ。
まず、「白人の目線で描かれた」については、特に問題はないと思う。
白人目線で黒人を描くことが許されないのであれば、当然逆も許されず、あらゆる人種を他の人種から描くことができなくなる。
問題は「白人を喜ばせるための表層的な映画」という点である。
本作は「白人の救世主映画」だというのだ。
私自身、「白人の救世主映画」という言葉さえ知らなかった。
要は「黒人の物語なのに白人の視点で語られ、黒人を寛容に受け入れる白人を描くことで白人の気分を良くさせる映画」らしい。
英紙「ガーディアン」によると、『人種対立を題材とする映画は、黒人が本当にひどい状況に置かれていた遠い昔の設定にしておけば、観客(特に白人)は観終わった後にこう思えるからだ──「私たち、ずいぶん変わったよね」「いまの俺たち、すごくうまくやってるじゃないか?」
そこには『ドライビングMissデイジー』の頃から変わらないメッセージがある。

「黒人に暴力を振るい、彼らを『ニガー』と呼ぶ人たちだけがレイシストであり、それ以外の人たちはみんな、そうした問題に敏感な、いわば『意識高い系の英雄』だという解釈だ。』
なるほど、この指摘には説得力がある。
そう言われれば、私自身も本作を観て気分を良くした『意識高い系の英雄』なのかもしれない。
しかも『ドライビングMissデイジー』もこういう評価をされているのか…。

本作がオスカー受賞後に、スパイク・リーは、「誰かが誰かを乗せて運転しているときは毎回、俺が負けるんだ。まあ、今回は運転手と客が交代してたけどね」と語り、またバスケットに例えて「コートのすぐそばで観戦していたら、レフリーが判定を誤った」と語ったそうだ。

さて、体重を20Kg増やして挑んだヴィゴ・モーテンセン。
"がさつさ"を演じることができるのは"繊細さ"だ。
無口な中に苦悩と気品を湛えたマハーシャラ・アリもよかった、 翡翠、フライドチキン、銃、手紙、と次々と伏線を打っては回収していく、 こういった手際がこの監督の好みなのだろう。

不遇な時代に未熟な二人が互いに学びあって影響しあって成長するロードムービーということで収めてしまってはいけないのかもしれない。
がさつな人間と気難しい人間。
自分がどちらの側に立っていても、物事の本質を知らしめてくれる人間に触れるのは心地いいものであるのは確かだ。
どこで収めるか、評価については、今後じっくり考え直してみよう。

原題 GREEN BOOK

製作国 アメリカ
製作 Participant Media
製作 DreamWorks SKG
製作 Innisfree Pictures
配給 ギャガ

監督 ピーター・ファレリー Peter Farrelly
製作 ジム・バーク Jim Burke
製作 チャールズ・B・ウェスラー Charles B. Wessler
製作 ブライアン・カリー Brian Currie
製作総指揮 ジェフ・スコール Jeff Skoll
製作総指揮 ジョナサン・キング Jonathan King
製作総指揮 オクタヴィア・スペンサー Octavia Spencer
脚本 ニック・ヴァレロンガ Nick Vallelonga
脚本 ブライアン・カリー Brian Currie
脚本 ピーター・ファレリー Peter Farrelly
撮影 ショーン・ポーター Sean Porter
プロダクションデザイン ティム・ガルヴィン Tim Galvin
衣装デザイン ベッツィ・ハイマン Betsy Heimann
編集 パトリック・J・ドン・ヴィト Patrick J. Don Vito
音楽 クリス・バワーズ Kris Bowers

出演 ヴィゴー・モーテンセン Viggo Mortensen
出演 マハーシャラ・アリ Mahershala Ali
出演 リンダ・カーデリーニ Linda Cardellini
出演 ディミテル・D・マリノフ Dimiter D. Marinov
出演 マイク・ハットン Mike Hatton
出演 イクバル・テバ Iqbal Theba
出演 セバスティアン・マニスカルコ Sebastian Maniscalco
出演 P・J・バーン P.J. Byrne