
公開日 2018/10/06 105分
イギリスの女性作家デボラ・モガーが、フェルメールの絵画から着想を得て創作したといわれるベストセラー小説を映画化。
世界最古の経済バブルといわれる17世紀オランダの 「チューリップバブル」。
球根ひとつの値段が邸宅一軒分の価値にもなったという狂乱の時代を背景に、老いた豪商のもとに修道院から嫁いだ若い妻と画家の許されざるの愛の顛末を重ねて描かれる。
監督は『ブーリン家の姉妹』のジャスティン・チャドウィック。
俳優でもあるこの監督は、これまでにそこそこの数の作品が公開されているものの、概して評判が良くなかったため、正直あまり期待はしていなかった。
しかし、蓋を開けてみるとかなり面白く観ることができた。
歴史ものにありがちな冗長な演出、長い上映時間ではなく、よく纏められていること。
これには予算の影響もあったのかもしれないが、撮影はごく小さなセットで撮られている気がする。
歴史に残る程のバブルに沸いたアムステルダムの熱気は伝わるが、俯瞰的なショットはなく、川が多く狭い街を行ったり来たりしているような印象だ。
登場人物も実在ではないだけに、歴史的な評価にとらわれることがない。
どの人物も平面な描き方はされず、多面性をきっちりと描かれている。
主人公の宗教観と恋愛観の矛盾。
その夫には宗教観、過去の後悔、また他の女への捨てきれない情欲。
裕福であることの虚栄心とそこへ至った罪悪感も垣間見える。
妻に浮気されて暴れるステレオタイプではないが、修道院から若い嫁をめとり浮気もするし、子供ができなければ返すというステレオタイプではあるのだ。
とはいえ、幾つものステレオを持てば多面性となる。
最終的に屋敷を継いだ家族から毎食事時に神とともに崇められる程に至ったのもこの夫の一面なのだ。
ただ、当時の豪商の囲う女性が多数いたことは想像に難くないため、この物語は現代の価値観にとらわれて描かれているようには思う。
勿論、当時の価値観で描いてしまえば、商業映画としては成り立たないのだが。
若い画家はやや深みに欠けるが、その絵自体に「情念がない」と評される所以なのかもしれない。
ただ、債権者から「逃げられたら困る」と軟禁されていた程の男が、無一文と判ってそれで放免される筈がない。「お前は終わりだ」という台詞もあったのに、それ以降の描写がないのには、物語の展開として物足りない。
天から俯瞰することができれば、魚の行商の男が見誤ったシーンのように、過ちも愚かさも見て取ることができる。
だがそこにいる当の本人達には判らず、一時の激しい熱に浮かれたりする。
その熱はいつかは醒め、戻ることはないのだが、過ちを償うことはできない。
人の愚かさが主題に描かれてはいるのだが、着地としては見事と思う。
広げに広げた風呂敷を、「そこか」と思う場所に着地させている。
更に、本作の特筆すべきは"動くフェルメール"とさえいえる、フェルメールを意識した映像。
ここにはかなり力が込められており、主役の抜擢もフェルメールを意識したように思える。とにかく見とれてしまうような美しい映像だ。
スケールの大きくない恋愛映画と地味なキャスティングも相まって京都での上映は1館のみ。この上映館の少なさと公開直後の鑑賞だったこと、それになんといっても、この手の歴史ドラマには一定数のファンがいるのだろう。
思った以上の集客だった。
主役は初見。若い画家役のデイン・デハーンは『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ』でライアン・ゴズリングの息子を演じた若者。
レオナルド・ディカプリオを彷彿させる。
原題 TULIP FEVER
製作国 イギリス
製作国 アメリカ
製作 World Entertainment
製作 Paramount Pictures
製作 Ruby Films
配給 ファントム・フィルム
監督 ジャスティン・チャドウィック Justin Chadwick
製作 アリソン・オーウェン Alison Owen
製作総指揮 ポール・トライビッツ Paul Trijbits
製作総指揮 ボブ・ワインスタイン Bob Weinstein
製作総指揮 デヴィッド・C・グラッサー David C. Glasser
製作総指揮 ジャスティン・チャドウィック Justin Chadwick
製作総指揮 クリストファー・ウッドロウ Christopher Woodrow
製作総指揮 モリー・コナーズ Molly Conners
製作総指揮 マリア・セストーン Maria Cestone
製作総指揮 サラ・E・ジョンソン Sarah E. Johnson
原作 デボラ・モガー Deborah Moggach
脚本 デボラ・モガー Deborah Moggach
脚本 トム・ストッパード Tom Stoppard
撮影 アイジル・ブリルド Eigil Bryld
プロダクションデザイン サイモン・エリオット Simon Elliott
衣装デザイン マイケル・オコナー Michael O'Connor
編集 リック・ラッセル Rick Russell
音楽 ダニー・エルフマン Danny Elfman
出演 アリシア・ヴィカンダー Alicia Vikander
出演 デイン・デハーン Dane DeHaan
出演 ジャック・オコンネル Jack O'Connell
出演 ホリデイ・グレインジャー Holliday Grainger
出演 マシュー・モリソン Matthew Morrison
出演 ケヴィン・マクキッド Kevin McKidd
出演 カーラ・デルヴィーニュ Cara Delevingne
出演 ザック・ガリフィナーキス Zach Galifianakis
出演 ジュディ・デンチ Judi Dench
出演 クリストフ・ヴァルツ Christoph Waltz