湯を沸かすほどの熱い愛

店舗イメージ

公開日 2016/10/29  125分


★★★★★★★ 7.0


浮気性の旦那に逃げられ、小学生の娘はイジメに遭う中、不治の病が発覚する主婦を宮沢りえが演じる。
人生のカウントダウンの中での家族再生の物語。
ただ、この家族が実は複雑な構成になっていることが次第に判っていくのがミソで、
それ自体がハードルでありながら、乗り越えていくことで新しい絆が生まれていく。

か細いイメージの宮沢りえに反して、主人公の主婦は所謂「肝っ玉母さん」の部類。
瞬間湯沸かし器的に、殴る、物を投げつける。
ただその暴力は常に筋が通ったものである。
このように一瞬で正しいことができる、正しい結果が得られる人に憧れる。
間違えることもあったのだろうが、子供の頃からそういったことの訓練ができているのだろう。
また常日頃の考え方が正しいのだろう。
「おたま」の丸い方でなく、逆側で旦那を殴るのはユーモラスである一方、
主人公の積み重ねた苦労や怒り悲しみがよく表れている。
浮気性の旦那には「安定のダメ男」オダギリジョー。
娘役には杉咲花。可愛くみせようという意図のない体当たりの演技が素晴らしい。

さて本作の評価を大きく左右するのが、娘へのイジメ問題と驚愕のラストシーン。
登校拒否を見せる娘をシバいてでも学校へ行かせる母親については、
「異論があるだろーなぁ」とは思いながら観ていた。
ただ、物語でイジメを扱う以上、何らかの対応が必要で、主人公の母親の気質からはこうするしかない。
主人公の気質に関わらず「学校休んでいいよ」とすれば、それはそれで一定数の反発意見も出るだろう。
本作の特徴は「振り子をふりっ切らすこと」にあると見ている。
悲劇ではあるが、そこに本作の爽快感がある。
登校拒否についても、振り子を真ん中辺りで揺らすのではなく、許さない方向に振り切る。
制服を盗まれた娘が、クラスで体操服を脱ぐシーンについても、
おおよそあり得ないシーンで、「気持ち悪い」という指摘も承知で振り切って見せる。
ラストシーンについてもそう。
ただ、このラスト、インパクトは絶大なのは間違いなく、
大仰なタイトルや、舞台がなぜ古めかしい銭湯なのかの必然性も解けるが、
主人公の「想い」がここに繋がるのかについては消化しきれない。
こうすることが必要なのか、「気性が激しさ」と「これに至る」のは別物に思える。
また、妻の闘病中でさえ病院に行けないダメダメな夫にこれができるのかとも思える。
実際の手続き上でも火葬場など実現可能なのだろうかとも思える。
現実論を差し置いて、作品の構成としては、娘が陽気に未来を描いたとしても、
陰気に落ち着かざるをえない展開を、衝撃的に激しい炎と赤い煙で引っくり返してみせる
手腕は見事なのだろう。

娘の実母のストーリーは悪くないが、探偵がここまでしてくれる動機づけや
放浪の旅をしていた若者とのエピソードはかなり強引で説得力に欠ける。
短い作品ではないが、この辺りはもう少し時間を延ばしてでも描くべきところだったと思う。

みるみる痩せ細っていく宮沢りえの演技は秀逸。
弱った足腰を奮い立たせて歩く姿は演技に見えないほどで、
病院のベッドでの表情には、亡くなった伯母がフラッシュしてしまった。

おそらくこの家族は「母の遺伝子を受け継いだ」娘が引っ張っていくのだろう。
『強烈なラストやなー』と思っていたら、エンドロールに「文化庁文化芸術振興費補助金助成」と出た。
違法行為に思えるだけに、このラストは文化庁的にOKなのか?

原題  湯を沸かすほどの熱い愛

製作国 日本
製作 「湯を沸かすほどの熱い愛」製作委員会
製作 クロックワークス   KlockWorx Co.ltd
製作 テレビ東京 
製作 博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
配給 クロックワークス  KlockWorx Co.ltd

監督 中野量太 Nakano Ryouta
製作 太田哲夫 Ohta Tetsuo
製作 深瀬和美 Fukase Kazumi
製作 若林雄介 Wakabayashi Yusuke
製作総指揮 藤本款 Fujimoto Makoto
エグゼクティブプロデューサー 福田一平 Fukuda Ippei
脚本 中野量太 Nakano Ryota
撮影 池内義浩 Ikeuchi Yoshihiro
美術 黒川通利 Kurokawa Michitoshi
衣装デザイン 加藤麻乃 Katoh Asano
編集 高良真秀 Koura Masahide
音楽 渡邊崇 Watanabe Takashi
主題歌 きのこ帝国 Kinoko Teikoku

出演 宮沢りえ Miyazawa Rie
出演 杉咲花 Sugisaki Hana
出演 篠原ゆき子 Shinihara Yukiko
出演 駿河太郎 Suruga Taro
出演 伊東蒼 Ito Aoi
出演 松坂桃李 Matsuzaka Toori
出演 オダギリジョー Odagiri Jyo