
公開日 2017/03/25 115分
2009年に51才で他界した女性監督ヤスミン・アフマドの遺作。
映画祭などでの公開はあったものの、初めてのロードショー公開。
トランプ政権発足後、各国の保護主義の台頭の下、世界がどんどん狭くなっていくように感じる。
時代は不寛容になりつつある。
本作の舞台となるマレーシアはイスラム教、仏教、儒教、ヒンドゥー教、キリスト教など多種の宗教と、マレー語、中国語、タミル語、英語などの多種の言語、
マレー系、中国系、タミル系の人種が混在する国。
その中で「タレンタイム」と呼ばれる高校の音楽コンクールに挑む学生達の数人と、その家族や恋人を描きつつ、予選に始まり決勝をクライマックスに置くという
構成としてはありふれた形となっている。
但しコンクールとはいえ、「ガンバル」「ガンバレ」の物語ではない。
それは結末を見ても分かる通り、結果を求める作品ではないのだ。
登場人物。主人公の学生ハフィズはマレー系の好青年。
成績は学年トップ。
父親はなく母親は末期の脳腫瘍で入院中。
その母親とは仲がいいが微妙な距離がある。
貧しいせいであろう楽器はアコースティックギターのみ。
コンクール参加も賞金目当て。
演奏する楽器でも判るが、ピアノで参加する女学生ムルーの家庭は裕福。
父親はイギリス系だが母親はマレー系。
メイドは中華系だがムスリムで、言動からも複雑な過去が窺える。
特にムルーは年齢が判り辛いのだが、ハフィズより1つは年上と思われる。
大学受験も終えて入学先も決まっているのだろう。
なので「老けている」といった台詞もある。
コンクールに向けて参加者に送迎のバイクが付く(2人乗り)というのが独特のお国柄だ。
このバイクの運転手の若者マヘシュと恋に落ちる。
このバイクの運転手には聴覚障害があり、手話でしか話せない。
一族揃って敬虔なヒンドゥー教徒でもある。
叔父が他宗教の隣人に殺されるという悲劇に遭うが、この叔父の言葉が彼を揺り動かす。
この叔父にも宗教の違いによる辛い過去があったのだ。
叔母は弟が殺されたこともあって他宗教嫌いに拍車が掛かっている。
多言語の国で、手話で想いを通じ合う妙が描かれる。
ラスト近くで必死で手話で話すのに対して「喋り過ぎで解らない」という台詞はコミカルでもあり深い意味もある。
コンクールに二胡の演奏で参加するカーホウは中国系。
父親からは華僑を地でいくスパルタ教育を受けているが、ハフィズに成績を抜かれ、焦りと嫉妬がある。
本来ギターにそぐわない二胡の協奏は、協調をうまく表現している。
映画ならではの表現として、公園でムルーとマヘシュの前に現れるたくさんの赤ん坊。
ハフィズの母親の前に現れる車椅子の男。
などが効いており、クリエイターとして脚本も兼ねる監督の力量が窺い知れる。
おならなどの幼稚で下品なお笑いについては、許容範囲内ではあるものの、必要とは思えないが、本国でウケるためには必要な要素なのだろうか。
不寛容に向かう時代に寛容であることの意味を優しく諭す。
8年も前に作られた作品であるが、今にこそ相応しい作品だと思う。
ちなみにハフィズの母役のアゼアン・イルダワティは、マレーシアでは有名な女優さんだそうだが、撮影時は本当に癌で闘病中そのままだったそうだ。
原題 TALENTIME
製作国 マレーシア
製作 Chilli Pepper Films
製作 Grand Brilliance
配給 ムヴィオラ Moviola
監督 ヤスミン・アフマド Yasmin Ahmad
脚本 ヤスミン・アフマド Yasmin Ahmad
撮影 ロー・ケオン Low Keong
音楽 ピート・テオ Pete Teo
出演 パメラ・チョン Pamela Chong
出演 マヘシュ・ジュガル・キショール Mahesh Jug al Kishor
出演 モハマド・シャフィー・ナスウィップ Mohamad Syafie Naswip
出演 ハワード・ホン・カーホウ Kahoe Howard Hon