
公開日 2017/04/07 119分
ネタの枯渇が叫ばれて久しいハリウッド。
『母をたずねて三千里』ではないが、生き別れになった肉親を探して旅する物語はもはや古典の部類だ。
だが敢えてこれをやるのは、かつてなかった「Google Earth」というツールが普段の生活に生まれたため。
Googleのバックアップで生まれたプロパガンダ的な作品かとも思ったが、それほどでもなかった。
だがこのツールがあってこその「実話」である。
それと主人公のルーツが、まだ国際的に(特に日本では)描かれることの少ないインドである。
Google Earthとインドが本作を新作として際立たせている鍵である。
そのインドでは年間8万人もの子供が行方不明になっているという現実がショッキングだ。
最近は日本でもインドを描いた好作品(『スラムドッグ$ミリオネア』、『めぐり逢わせのお弁当』、『きっと、うまくいく』)は増えだしているが、本作では子供の誘拐や養護施設、里親制度など、これまでにないインドの事情を描いた描写も多い。
主演のデブ・パテルは『スラムドッグ$ミリオネア』の主演男優。
少しおっさんになった。
ジェイク・ギレンホールに少し似てきている。
経年につれて徐々に病んでいく主人公を繊細に演じている。
里親役にニコール・キッドマン。
もうおばちゃん役もへっちゃら。
かつてのハリウッド・ビューティーのシンボル的女優だが、今でも多作をこなしているのが凄い。
美人女優に拘らずに、どんな役でもこなせるだけの役柄を広げている姿勢と努力の賜物だろう。
恋人役にルーニー・マーラ。
異端役が多いので、普通の人の役柄が珍しく見える。
主人公の弟は、里子のプレッシャーから精神的に病み、生活も破たんしている。
優等生だった主人公も実は成長するにつれて、心を蝕まれだす。
子供時代の不幸や不遇は簡単には脱せないものなんだとつくづく思う。
そして長い時間の果てに、迷子になった記憶とGoogleEarthの映像を結びつける主人公は、時間が掛かったとはいえ、心の修復が可能になったことを示して物語は終わる。
だが、最後に明かされる主人公が迷子になった後の実兄の運命はあまりにも悲劇的だ。
そりゃそうだ…。
迷子になった主人公のみをカメラは追うが、連れ出した弟が行方不明になった兄の気持ちを思うと辛い。
本作はGoogleEarthという道具の発達に伴った僥倖であり、道具が発達したところでそれは事後策でしかなく、悲劇の元は別にあることをラストに訴えている。
本作のベースは不可能と思えた肉親との再会というハッピーストーリーではなく、今の時代も不幸を生み続ける社会の存在に対する訴えだと思う。
タイトルである『ライオン』の意味は最後の最後で語られる。
原題 LION
製作国 オーストラリア
製作 Weinstein Company
製作 Screen Australia
製作 See Saw Films
配給 ギャガ GAGA Corporation
監督 ガース・デイヴィス Garth Davis
原作 サルー・ブライアリー Saroo Brierley
脚本 ルーク・デイヴィス Luke Davies
撮影 グレイグ・フレイザー Greig Fraser
編集 アレクサンドル・デ・フランチェスキ Alexandre de Franceschi
音楽 ダスティン・オハロラン Dustin O'Halloran
音楽 フォルカー・バーテルマン Volker Bertelmann
出演 デヴ・パテル Dev Patel
出演 サニー・パワール Sunny Pawar
出演 ルーニー・マーラ Rooney Mara
出演 デヴィッド・ウェンハム David Wenham
出演 ニコール・キッドマン Nicole Kidmon