怒り

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公開日 2016/09/17  141分


★★★★★★★ 7.0


残忍な殺人事件と残された「怒」の文字。
猟奇殺人犯とそれを追う刑事の物語かと思いきや、さにあらず。警察による捜査はほぼ描かれない。

物語は、事件の約1年後に東京、千葉、沖縄に現れた素性の分からない3人の男と、その周囲で展開していく。
それぞれの場所で問題を抱えながら暮らしている人達と、3人の男は次第に関係を深めていく。

3人それぞれが、実は犯人なのかもしれない、また、そうとも思えてしまう緻密な演出によって観客自身も疑心暗鬼に陥る構図になっている。
『怒り』というタイトルは、殺人事件の根源にある怒りを連想してしまうが、その怒りの根源は怨恨、ましてや動機とも取れる逆恨みではない。
ただ、そこが上手く表現出来ていないために、今時のキレたサイコ野郎の犯行に見えてしまうのが残念だ。

本作が描く怒りは、劇中の台詞にもある「泣いても叫んでもどうすることもできない苦しみ」であり、それは現代の格差社会、沖縄の治安、障害者やへの偏見等々から生み出されているものだ。
悪意の有無はあれ、空気のようにマイノリティを押し潰そうとする"現在"の空気のような圧力の恐ろしさが描かれている。
そしてその濁った圧力を払拭できるのが、人と人の信頼であり、それがどれほど困難であるかが描かれる。

沖縄のファーストシーンの美しさと、そこにある苦難の対比などにあざとさを感じなくもないが、それらを差し引いても有り余る説得力はある。
アイドル女優と思っていた広瀬すずが、演技力はまだまだでも、清純派の売れっ子にも関わらず、予想外の体当たりの演技を見せるところにも本作の気合いと本気度が窺える。
(パタッと尻もちをつくシーンのわざとらしさには引いたが)
難役をこなしてみせた宮崎あおいよりも、テロップが上なのには、改めて「テロップ順って難しいよなぁ」と思わせた。

妻夫木聡のエピソードにおける綾野剛の怪しさなど、上手い演出も光っている。『大切なものが多過ぎる』ことの生き難さも身につまされる。

無人島の生活拠点などは『悪人』のラストの灯台を彷彿させ、監督の好む画なのだろう。
『悪人』と同様に現代の生き難さと、その根源を描いて秀逸な作品。
同時期に公開されている大ヒットアニメと選択を迷ったが、観るべき映画として誤りはなかったと思う。

原題  怒り

製作国 日本
製作 東宝   TOHO
製作 ドラゴンフライ エンタテインメント Dragonfly Entertainment INC.
配給 東宝  TOHO

監督 李相日 Lee Sang-il
製作 市川南 Ichikawa Nimani
プロデューサー 臼井真之介 Usui Shinnosuke
共同製作 中村理一郎 Nakamura Riichirou
共同製作 弓矢政法 Yumiya Masanori
共同製作 川村龍夫 Kawamura Tatsuo
企画 川村元気 Kawamura Genki
原作 吉田修一 Yoshida Syuichi
脚本 李相日 Lee Sang-il
撮影 笠松則通 Kasamatsu Norimichi
編集 今井剛 Imai Tsuyoshi
音楽 坂本龍一 Sakamoto Ryuichi
音楽プロデューサー 杉田寿宏 Sugita Toshihiro

出演 渡辺謙 Watanabe Ken
出演 森山未來 Moriyama Mirai
出演 松山ケンイチ Matsuyama Kenichi
出演 綾野剛 Ayano Gou
出演 広瀬すず Hirose Suzu
出演 宮崎あおい Miyazaki Aoi
出演 妻夫木聡 Tsumabuki Satoshi
出演 池脇千鶴 Ikewaki Chizuru
出演 田中隆三 Tanaka Ryuzou
出演 高畑充希 Takahata Mitsuki
出演 原日出子 Hara Hideko
出演 ピエール瀧 Pierre Taki
出演 三浦貴大 Miura Takahiro