
公開日 2016/03/05 118分
見終わった後、精神的に不安定になった。
コメディである本作に、何をそんなに影響されるのか、とは思うが、今の世の中の生き辛さをデフォルメした本作は痛々しく、手厳しい。
コメディといってもブラック色がかなり濃いのだ。
設定ありきな本作は、コメディの常套ではある。
独身者が許されないという社会で、妻と別れた主人公は、ある施設で45日以内に恋愛対象を見つけなければならない。
45日が過ぎると、予め自己申告した動物に変えられるのだ。(その方法についての説明は一切ない)
但し、脱走して山中に潜む独身者を"狩る"と、1人につき1日の猶予が与えられる。
疑問は受け付けない。社会そのもがそういうルールでできているのだ。
前半はこの施設(ホテルのようなもの)内での奇妙な日々が描かれる。
カップルになるメリットを刷り込む講義の無機的さ。
生き残るために恋愛対象を探すという逆説的な日々は、今日の恋愛至上主義の意味を考えさせる。
後半は、施設を脱走し、山中へと舞台を移す。
そこは前半とは真逆に、恋愛は許されない世界だ。
主人公は皮肉にもそこで恋に落ちるのだが…。
とにかくこの映画は、肉体を残酷に痛めつけるシーンが多い。
そして物語はその極致、春琴抄的なラストに至る。
恋愛の"ベース"を"共感"や"協調"に求める本作には、その偏向さも感じるものの、そこが本作を特色づける面白さでもある。
タイトル『ロブスター』とは、主人公が申告した"変えられる"動物で、「Good Choice」と称賛される。
コメディらしい、くだらない台詞も多く散りばめられている作品。
いちゃついた罰として、熱々のゆで卵をわきに挟むとか、近視でないことを確認するためにファスナーのロゴを読ませるとか。
だが、それらもニヤリとさせる程度で、作品は世界の狭さと陰鬱さに覆われている。
この地味な内容にも関わらず、キャストは豪華。アクション・スターの印象が強かったコリン・ファレルの役幅には驚く。
豪華キャストによるブラックなコメディという点で、ウェス・アンダーソンを引き合いに出されることが多い監督ではある。希望に向かって熱く生きる者達がいない点では共通するものの、「ユルい」印象の強いウェス・アンダーソンに対して、ヨルゴス・ランティモスに精神的余裕はない。
暗く、寒く、痛い。
どこに行っても世界は生き難い。
「逃げ場所はない」、それが独特なタッチで語られる本作は、多くの支持を受けるものでないとは思うが、個人的には面白かった。
そればかりか、ちょっと不安定になるほど突き刺さった。
バカ笑いできるコメディもいいが、本作のように腹にズシンとくるようなコメディもいいものだ。
原題 THE LOBSTER
製作国 アイルランド
製作国 イギリス
製作国 ギリシャ
製作国 フランス
製作国 オランダ
製作国 アメリカ
製作 Film4
製作 Irish Film Board
製作 Eurimages Eurimages
製作 Nederlands Fonds voor de Film
製作 Greek Film Center
製作 British Film Institute (BFI)
製作 Canal+
配給 ファインフィルムズ FINE FILMS, INC.
監督 ヨルゴス・ランティモス Giorgos Lanthimos
製作 エド・ギニー Ed Guiney
製作 リー・マジデイ Lee Magiday
製作 セシ・デンプシー Ceci Dempsey
製作 ヨルゴス・ランティモス Giorgos Lanthimos
製作総指揮 アンドリュー・ロウ Andrew Lowe
製作総指揮 テッサ・ロス Tessa Ross
製作総指揮 サム・ラヴェンダー Sam Lavender
脚本 ヨルゴス・ランティモス Giorgos Lanthimos
脚本 エフティミス・フィリップ Efthymis Filippou
撮影 ティミオス・バカタキス Thimios Bakatakis
プロダクションデザイン ジャクリーン・エイブラムス Jacqueline Abrahams
衣装デザイン セーラ・ブレンキンソープ Sarah Blenkinsop
編集 ヨルゴス・モヴロプサリディス Yorgos Mavropsaridis
出演 コリン・ファレル Colin Farrell
出演 レイチェル・ワイズ Rachel Weisz
出演 ジョン・C・ライリー John C. Reilly
出演 レア・セドゥ Lea Seydoux
出演 ベン・ウィショー Ben Whishaw
出演 ジェシカ・バーデン Jessica Barden
出演 マイケル・スマイリー Michael Smiley
出演 オリヴィア・コールマン Olivia Colman
出演 アンゲリキ・パプーリァ Angeliki Papoulia