毛皮のヴィーナス

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公開日 2014/12/20  96分


★★★★★★★ 7.0


予想外の物語だった。
マゾッホの『毛皮のヴィーナス』を映画化したものではなく、そこから着想を得た舞台劇の映画化だというのは予備知識としてあった。
二人芝居だということも。
だが内容は予告の印象とは大きく異なる。
なるほど、これはネタバレせずに予告するのは難しい。ネタバレできないネタが作品すべてを覆った作品なのだから。
 以下、ネタバレ。
冒頭、雷鳴轟く嵐の中をフラフラと進むカメラ。カメラ=視線だと思えるのだが、視点が妙に高い。
やがてその視点はある劇場に辿り着き、ドアを開ける。この時点で「もしや…」と思ったのだが、以降は予感を裏付ける事象が次々と起こる。
オーディションの予約が入っていない。
名前が舞台の主人公と同じ。
照明器具を自由に操れる。
何故か台本を持っている。しかも既に完璧に頭に入っている。
などなど。
つまり、冒頭からヴィーナスはお怒りなのだ。
ヴィーナス(仮の姿は女優)はマゾッホの小説などSMポルノ扱い、その脚色も同様に性差別もの扱いなのだ。高慢でインテリぶった脚本家、演出家など鼻持ちならないのだ。
そして、舞台のみならず、演出家自身の本質も見抜いているのだ。
迷惑でイラっとさせる女優の態度は『おとなのけんか』のイラっと感を彷彿した。相変わらず巧い。
この二人の掛け合いが面白い。台詞の応酬が延々続くのだが。
次第に本性を晒しだす演出家。
唐突で意外な行動をとる女優。舞台衣装を出すのもお手のものなんだ。机にくっ付けたガムが知らない間に無くなっていたりもする。
 悪戯っぽく、且つ色気に満ちたヴィーナスには興味津々で観入ってしまう。
映画のタイトルから抱く印象をひっくり返す「『毛皮のヴィーナス』なんかくだらない」という内容が意外で上手い。
高慢でインテリぶった演出家の下劣さを暴き、しかもそいつがポランスキー自身に似ているというオシャレさが心地いい。
 典型的なワンシチュエーション・ムービーなので、そこに物足りなさを感じる人は居るかもしれない。
二人の会話と本読みの台詞が混沌としていくのも解り辛く、エンディングのヴィーナスを描いた名画の数々は、「こういうヴィーナスの描き方もあるよ」という洒落っ気なんだろうか。
 ポランスキー、80歳にして才能はまったく衰えしらずだ。

原題  VENUS IN FUR

製作国 フランス
製作 R.P. Productions
製作 Monolith Films
配給 ショウゲート
配給 ニューセレクト NEW SELECT Co.,Ltd.

監督 ロマン・ポランスキー Roman Polanski
製作 ロベール・ベンムッサ Robert Benmussa
製作 アラン・サルド Alain Sarde
原作 レオポルド・フォン・ザッヘル=マゾッホ Leopold von Sacher-Masoch
原作戯曲 デヴィッド・アイヴス David Ives
脚本 デヴィッド・アイヴス David Ives
脚本 ロマン・ポランスキー Roman Polanski
撮影 パヴェル・エデルマン Pawel Edelman
音楽 アレクサンドル・デスプラ Alexandre Desplat

出演 エマニュエル・セニエ Emmanuelle Seigner
出演 マチュー・アマルリック Mathieu Amalric