イーダ

店舗イメージ

公開日 2014/08/02  80分


★★★★★★ 6.0


イーダという名を伏せられ、アンナという名で修道院で育てられた修道女が、その生存を告げられた唯一の肉親である伯母とともに、初めての外界で、両親の運命を探るロードムービー。
第二次大戦前の頃、イーダという名前はユダヤ人特有のものであったことは予備知識として知っていた。
そして本作を観る前はイーダの両親はナチスによって殺されたのだと思っていた。
だが、そうではなく、両親をかくまったポーランド人によって殺されたことが判っていく。
ここで「?」となってしまった。
『サラの鍵』はフランス人によるユダヤ人虐殺を描いていた。そして何故そのようなことが起こったのかが丁寧に解説されていた。
それに対して、本作は解説じみた台詞は一切なく、時代背景が凄く解り辛い。
久し振りにパンフレットが解説書として有効な作品だった。パンフレットを読めば、オープニングでキリスト像を修復するシーンや、伯母ヴァンダの職業と苦悩がよく掴める。
冒頭の、尼僧たちが古いキリスト像を修復し、教会の入り口に建てるシーン。
スターリン時代に人目に触れないように教会の中にしまわれていた古いキリスト像を修復し清められ、改めて教会の入り口に建てられるこのシーンは、当時の政府の宗教へのより大きな寛容、すなわち政治的権威としての共産主義と両立し得る精神的権威としてのカトリック教会が認められるようになった時代を暗示していること。
ポーランド人によるユダヤ人狩りとして有名な「イェドヴァブネ事件」のような事件だけでなく、戦争を生き延びたユダヤ人たちの中から、共産体制の熱烈な協力者が現れたこと。彼らの反ユダヤ的で反共産主義的なポーランド人に対する過酷な裁きの根底には、戦前・戦中のポーランドでの屈辱的な生活を強いられたことに対する復讐心があったこと。
このスターリン時代にユダヤ人がポーランド人を裁く側に回った裁判に関わった検事の一人が伯母ヴァンダである。
スターリン時代に「赤い(血)のヴァンダ」と呼ばれた彼女は「雪解けの時代」に生きる方向を見失ってしまったのだ。
伯母ヴァンダの死はあまりに唐突でありながら、苦しみの決壊を思わせる衝撃的なシーンだ。
 本作を特徴づけているのは、画面の構図であろう。
余白を充分に活かしたモノクロの端正な画面は、修道女の厳格で慎ましい想いを表した絵画のように見える。
 両親を殺した男の赤ん坊を、思わぬ経緯で祝福してしまう主人公。祝福する側と、祝福される側に、人生の思わぬ綾が見て取れる。
そして、突然現れたイーダの存在は、やがては酒と煙草と男に溺れながらも生を繋いできた叔母に対して、結果的に引導を渡してしまうことになる。伯母にとっては、遅かれ早かれなのかもしれないが。
叔母の生を辿ってみて、尚、最後には修道院へと歩を進めるイーダの姿は、ここでついに固定で静かな画面から外れたものになる。
イーダの強い意思が動き始めたシーンだ。
カメラや構図のせいか、強い意思へと向かう若さのせいか、どことなく『ヒミズ』のラストを思い出してしまった。

原題  IDA

製作国 ポーランド
製作 Canal+ Polska
製作 City of Lodz
製作 Danish Film Institute
配給 マーメイドフィルム

監督 パヴェウ・パヴリコフスキ Pawel Pawlikowski
製作 エリック・エイブラハム Eric Abraham
製作 ピョートル・ヂェチョウ Piotr Dzieciol
製作 エヴァ・プシュチンスカ Ewa Puszczynska
脚本 パヴェウ・パヴリコフスキ Pawel Pawlikowski
脚本 レベッカ・レンキェヴィチ Rebecca Lenkiewicz
撮影 ウカシュ・ジャル Lukasz Zal
撮影 リシャルト・レンチェフスキ Ryszard Lenczewski
音楽 クリスチャン・エイドネス・アナスン Kristian Eidnes Andersen

出演 アガタ・クレシャ Agata Kulesza
出演 アガタ・チュシェブホフスカ Agata Trzebuchowska
出演 ダヴィッド・オグロドニック Dawid Ogrodnik
出演 イェジー・トレラ Jerzy Trela
出演 アダム・シシュコフスキ Adam Szyszkowski
出演 ヨアンナ・クーリグ Joanna Kulig